「ジャズを聞いてみたい!」「ジャズについて知りたい!」と思っている方がいるのではないでしょうか。
ジャズってなんだかおしゃれな感じがするし素敵ですよね。
でも、「ジャズってどうやって勉強したらいいの?」とか「何から聞けばいいのか分からない」と立ち止まっている方が大半なのではないでしょうか。
ジャズの入門書は色々種類がありますし、有名なジャズマンも数え切れないくらいいますのでそうやって悩むのはもっともだと思います。
そこで、ジャズ初心者の方におすすめしたいのが村上春樹の『ポートレイト・イン・ジャズ』です。
この記事では『ポートレイト・インジャズ』の魅力に迫りながら、本の中で取り上げられているジャズマンを7人厳選して紹介したいと思います。
『ポートレイト・イン・ジャズ』はどんな本?
『ポートレイト・イン・ジャズ』は、イラストレーターの和田誠さんが描くジャズミュージシャンの肖像画に村上春樹さんがエッセイを添えた形でミュージシャンが紹介されていきます。
目次には名前がずらっと並んでいて、全部で50を超えるミュージシャンが一冊の本の中で紹介されています。
和田さんの描く引き込まれるような肖像画に加え、ジャズに造詣の深い村上さんのエッセイがこの本の魅力といえます。
一般的なジャズ名鑑だと経歴が細かく書かれ、発表したレコードが紹介されてとジャズ初心者にはなかなかとっつきにくい内容になっているかもしれません。
『ポートレイト・イン・ジャズ』はそうしたジャズ名鑑とは違い、村上春樹さんのミュージシャンに対する思い出が語られたエッセイ形式なので初心者にも親しみやすいと思います。
また、短い文章で書かれていますから読むのに苦にならないはずです。
村上さんの文章は人を引き込む力がありますから、まずは文章を楽しむ気持ちで読んでみるとよいと思います。
ジャズ初心者の方は本をはじめから読んでいくのではなく、以下でおすすめする7人のジャズマンの項から読んでみる、あるいは聴いてみるのはいかがでしょうか。
モダン・ジャズ・カルテット
はじめに紹介するのはモダン・ジャズ・カルテットです。
『ポートレイト・イン・ジャズ』で印象的だった部分を引用しておきます。
逆説的な言い方になるが、MJQのユニットとしての強力さは、そのユニットとしての破綻性の中にある。
『ポートレイト・イン・ジャズ』p.188
モダン・ジャズ・カルテットでおすすめしたい一曲は「オーヴァー・ザ・レインボー」です。ミュージカル映画『オズの魔法使い』の中で使われたスタンダードです。
アート・ブレイキー
2人目に紹介するのはアート・ブレイキーです。
村上さんが初めて「モダン・ジャズ」に触れた時に感じたことがエッセイにつづられています。
そのときに僕がいちばん強くひきつけられたのは、トーンだったと思う。六人の意欲的なミュージシャンたちの生み出すトーンはいかにもマッシヴであり、挑発的であり、ミステリアスであり、そして……黒かった。
『ポートレイト・イン・ジャズ』p.38
アート・ブレイキーで有名なのは、「モーニン」です。NHK BSやEテレで放送される『美の壺』のテーマソングにもなっています。
ビル・エヴァンズ
3人目に紹介するのは、ビル・エヴァンズです。
スコット・ラファロを迎えたピアノ・トリオでのエヴァンズの演奏を詩的な表現で称賛しています。
人間の自我が(それもかなりの問題を抱えていたであろう自我が)、才能という濾過装置を通過することによって、類まれな美しい宝石となってぽろぽろと地面にこぼれおちていく様を、僕らはありありと目撃することができる。
『ポートレイト・イン・ジャズ』p.72
ビル・エヴァンズで有名なのは、「ワルツ・フォー・デビイ」です。
マイルズ・デイヴィス
4人目に紹介するのは、ジャズの帝王とも呼ばれるマイルズ・デイヴィスです。
村上さんは、ジャズ・バーに入って「何か聴きたい音楽はありますか?」と聞かれて頭にぱっと浮かんだのがマイルズの『フォア・アンド・モア』で、それを聴いたときのエピソードを語っています。
[フォア・アンド・モア』の中でのマイルズの演奏は、深く痛烈である。彼の設定したテンポは異様なばかりに速く、ほとんど喧嘩腰と言ってもいいくらいだ。トニー・ウィリアムズの刻む、白い三日月のように怜悧なリズムを背後に受けながら、マイルズはその魔術の楔を、空間の目につく限りの隙間に容赦なくたたき込んでいく。彼は何も求めず、何も与えない。そこには求められるべき共感もなく、与えるべき癒しもない。そこにあるのは、純粋な意味でのひとつの「行為」だけだ。
『ポートレイト・イン・ジャズ』p.105
本の中で挙げられている『フォア・アンド・モア』の「ウォーキン」を一度じっくり聴いてみるのはいかがでしょうか。
ルイ・アームストロング
5人目に紹介するのはジャズの父的存在であるルイ・アームストロングです。
村上さんが好きな逸話が紹介され、ルイ・アームストロングがいかに音楽が好きだったか、その想いがつづられています。
ルイ・アームストロングの音楽が、僕らにいつも変わらず感じさせるのは、「この男はほんとうにこころのそこから喜んで音楽を演奏しているんだということである。そしてその喜びは見事なばかりに強い伝染性を持っている。
『ポートレイト・イン・ジャズ』p.153
まず聴きたいルイ・アームストロングの曲は、「ハロー・ドリー」です。
『ビルボード』ホット100チャートを席巻していたビートルズをなんと追い越した一曲なのです。
セロニアス・モンク
6人目に紹介するのは、セロニアス・モンクです。
村上さんがセロニアス・モンクのLPをレコード店で買った時のエピソード、そして彼の音楽に「宿命的に惹かれた時期があった」ことが書かれています。
モンクの音楽は頑固で優しく、知的に偏屈で、理由はよくわからないけれど、出てくるものはみんなすごく正しかった。その音楽はたとえて言うなら、どこかから予告もなく現れて、なにかすごいものをテーブルの上にひょいと置いて、そのままなにも言わずに消えてしまう「謎の男」みたいだった。
『ポートレイト・イン・ジャズ』p.157
僕がおすすめしたいセロニアス・モンクの一曲は、「ボディ・アンド・ソウル」です。「スタンダード」になっているバラード曲で、優しく甘美な音楽となっています。
ハービー・ハンコック
最後に紹介するのはハービー・ハンコックです。個人的に一番好きなジャズマンです。
彼の代表作『処女航海』についてこのように書かれています。
1960年代後半の「煮詰まった」ジャズ・シーンにあって、この『処女航海』(”Maiden Voyage”)のスマートなアルバム・ジャケットと、前向きで清新なサウンドは、僕ら若いジャズ・ファンの心に、ずいぶん鮮やかな印象を残していった。まるで長いあいだ閉め切りになっていた家の窓が、誰かの手で大きくさっと開け放たれたような気がしたものだった。
『ポートレイト・イン・ジャズ』p.282
本でも紹介されている『処女航海』は本当におすすめなのでぜひ一度聴いてみてください。
まとめ
ジャズに触れてみたいという方はまず『ポートレイト・イン・ジャズ』から入ってみるのはいかがでしょうか。
そしてまず自分が素敵だと思った音楽やミュージシャンを見つけ、じっくり聴いてみましょう。ジャズは楽しいです!