仏文学でフランス語を学ぼう①ランボー『谷間に眠る男』

外国語

今回はアルチュール・ランボーの初期作品の1つ『谷間に眠る男(LE DORMEUR DU VAL)』を原文で読んでフランス語を一緒に学んでいきましょう。

ランボーってどんな人?

アルチュール・ランボー(1854-1891)が難解なのはその作品だけでなく、その生涯もまた難解です(笑)

天才少年として見いだされ、詩人を志したランボーは詩人ヴェルレーヌに評価され、『酔いどれ船』を携えて、パリに出てきます。

しかし、ランボーは飲酒・麻薬にどっぷりハマってしまい段々と詩壇からも距離を置かれるようになります。

ともに生活を送ってきたヴェルレーヌとの間で痴話げんかが起こり、ついにヴェルレーヌはランボーに発砲します。

ランボーは故郷に戻りますが、その時書かれたのが彼の代表作『地獄の一季節』です。これはランボー自身によって出版された唯一の作品です。

その後、彼は放浪を続けて散文作品『イリュミナシオン』を書きあげますが、21歳頃には完全に死を放棄しています

ランボーはヨーロッパから離れアフリカに移動してしまい、37歳という若さで亡くなりました。

うーん。常人には理解しがたい生き方ですね(笑)

『谷間に眠る男』の原文

ランボーの作品はどれも難解なものばかりですが、今回紹介する『谷間に眠る男』はその中では比較的分かりやすい作品なのではないかと思います。

まずはここにフランス語原文を掲載しますので、一度目を通してみてください。できれば詩の意味も考えてみましょう。

C'est un trou de verdure où chante une rivière
Accrochant follement aux herbes des haillons
D'argent;où le soleil, de la montagne fière,
Luit:c'est un petit val qui mousse de rayons.

Un soldat jeune, bouche ouverte, tête nue,
Et la nuque baignant dans le frais cresson bleu,
Dort;il est étendu dans l'herbe, sous la nue,
pâle dans son lit vert où la lumière pleut.

Les pieds dans les glaïeuls, il dort. Souriant comme
Souriant un enfant malade, il fait un somme:
Nature, berce-le chaudement:il a froid.

Les parfums ne font pas frisssoniner sa narine;
Il dort dans le soleil, la main sur sa poitrine
Tranquille. Il a deux trous rouges au côté droit.

第一節の解説

C'est un trou de verdure où chante une rivière
Accrochant follement aux herbes des haillons
D'argent;où le soleil, de la montagne fière,
Luit:c'est un petit val qui mousse de rayons.

まずは韻を確認しましょう。「rivière,fière」「haillons,rayons」がそれぞれ韻を踏んでいます。

第一句
C’est un trou de verdureは、「それは緑色の窪地だ」という意味です。

後ろからoù chante une rivièreで修飾します。chanterは「歌う」という意味の他に「音を立てる」という意味があります。したがって、「その窪地では川が音を立てている」と直訳されます。

第二句
Accrochant follement aux herbes des haillons は現在分詞で rivièreにかかっています。「ぼろきれを草に狂おしく引っかける」くらいの意味になります。

第三句
D’argentの主語は haillonsです。つまり、「そのぼろきれは銀色だ」という意味です。où le soleil, de la montagne fièreの部分は「そこでは太陽がそびえ立つ山から」という意味になります。

第四句
Luitの主語はle soleilです。つまり、「太陽が輝く」という意味です。c’est un petit val qui mousse de rayonsの部分は「日光を浴びて泡立つ小さな谷だ」と直訳されます。

なんとなく自然の情景が思い描けたでしょうか。川のしぶきや泡が日光を浴びて銀色に輝く様子をぼろきれだとしている部分が詩的ではないでしょうか。

第二節の解説

Un soldat jeune, bouche ouverte, tête nue,
Et la nuque baignant dans le frais cresson bleu,
Dort;il est étendu dans l'herbe, sous la nue,
pâle dans son lit vert où la lumière pleut.

韻は「nue, nue」、「bleu, pleut」ですね。

第五句
Un soldat jeune, bouche ouverte, tête nueは、初めてでてきたUn soldatの説明になっています。

「ひとりの若い兵士が、口を開け、帽子を被っておらず」という意味です。bouche ouverte, tête nueの部分は過去分詞が前の名詞を修飾するという関係になっています。

第六句
Et la nuque baignant dans le frais cresson bleuは、現在分詞の構文が使われています。意味上の主語が(兵士)のうなじになっていて、状況説明が続きます。

意味は「青く冷たいクレッソンにうなじを浸して」という意味になります。

第七句
Dortが第一句で出てきたUn soldat の動詞になります。つまり、「若い兵士は眠っている」とつながります。

il est étendu dans l’herbe, sous la nueは、「彼は横たわっている。草のなか、空の下で」という意味になります

第八句
pâle dans son lit vert où la lumière pleutは第三句の状況説明の続きになります。

「青白い顔をして(彼は横たわっている)。光が降る緑の寝床のなかで」

第二節の段階では、一人の兵士が自然の中で眠っていることが分かります。さてこれからどういう情報が提供されるのでしょうか。

第三,四節の解説

Les pieds dans les glaïeuls, il dort. Souriant comme 
Souriant un enfant malade, il fait un somme:
Nature, berce-le chaudement:il a froid.

Les parfums ne font pas frisssoniner sa narine;
Il dort dans le soleil, la main sur sa poitrine
Tranquille. Il a deux trous rouges au côté droit.

韻を確認しましょう。これは第三節と第四節を一緒に見なければいけません。

comme, somme」、「narine, poitrine」、「froid, droit」が韻を踏んでいますね。

第九句
Les pieds dans les glaïeuls, il dortは、第二節に続く、状況説明の続きです。「足をグラジオスの茂みへと投げ出し、彼は眠る」という意味です。

Souriant commeは「~のように微笑みながら」と現在分詞が使われています。

第十句
Souriant un enfant maladeは前のcommeに続きます。「病気の子供が微笑むように微笑んで」のような意味です。

il fait un sommeは「彼はひと眠りしている」という意味です。commeとの音の効果を狙ってsommeが使われたのでしょう。

第十一句
Nature, berce-le chaudementの部分は一種の命令文として解釈できます。Natureは呼びかけで「自然よ」とでも訳します。berce-le chaudementは「彼を暖かく揺すっておやり」です。leは兵士のことです。

il a froidは「兵士は寒がっている(から)」という意味です。Il fait froidは外の気温が寒いときに使われるのに対して、Il a froidは彼が寒いと感じているということを表します。

第十二句
Les parfums ne font pas frisssoniner sa narineは「faire +動詞の原形」で使役構文が使われています。

直訳で「香りは兵士の鼻腔をくすぶらせなかった」という意味になります。

第十三句
Il dort dans le soleilは「太陽の下彼は眠る」で、la main sur sa poitrineは「胸の上に置かれた彼の手」という意味になります。

第十四句
Tranquilleは先ほどのla mainの補語です。つまりla main sur sa poitrine (est) tranquilleで「胸に置かれた彼の手は動かない」という意味です。

さて最後のIl a deux trous rouges au côté droitですが、意味は「彼は右わきに赤い2つの穴がある」です。

つまり、眠っていたと思っていた兵士は実は銃で撃たれ、すでに死んでいたということが最後の最後で種明かしされました!

deux, trous, rougesは似た音を続かせて音の効果を意識しています。

まとめ

ランボーの中でも比較的分かりやすい『谷間に眠る男』を読んできました。

気持ちよく眠っていたと思っている兵士が実は死んでいたという事実が最後に明かされる構成をこの短い詩の中で展開したことに恐れ入ります(笑)

trou(窪地)にはじまり、trous(穴)で終わる辺りも侮れませんね。

ランボーに関心を持った方は以下の本をおすすめします。対訳なのでフランス語の勉強にもなります。

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