ロシア歌曲の『カチューシャ』はご存知でしょうか。
日本でもロシア民謡としてよく知られている一曲なので、皆さんもどこかで聞いたことがあるのではないかと思います。
筆者個人としては、アニメ『ガールズ&パンツァー』でプラウダ高校が歌う『カチューシャ』がとても印象的です。
『カチューシャ』の歌詞を一言で記すと、出征した恋人にカチューシャが想いを寄せるという内容です。
この記事ではそんな『カチューシャ』の歌詞を和訳することを試みました。『カチューシャ』に興味を持たれた方はぜひ読んでみて下さい!
適宜ロシア語の解説を加えているので、ロシア語学習者の方もぜひ勉強に役立てていただけると幸いです。
『カチューシャ』の全体和訳
※なるべく意訳をせず、原文のニュアンスを意識しました。
リンゴとナシの花が咲き誇っていた
川の上に霧が漂い始めた
カチューシャは岸の方へと出ていった
高く険しい岸に
カチューシャは出て行って歌い始めた
草原の灰色の鷹についての歌を
愛した人についての歌を
手紙を大事にしていた人についての歌を
おお、少女の小さな歌よ
明るい太陽の後を追って飛んでいきなさい
そして遠い国境にいる兵士の元へ
カチューシャからの便りを届けなさい
どうか彼が素朴な少女を思い出しますように
どうか彼女が歌うのを聞ききますように
どうか彼が母なる大地を守りぬきますように
そしてカチューシャは愛を守りぬくでしょう
リンゴとナシの花が咲き誇っていた
川の上に霧が漂い始めた
カチューシャは岸の方へと出ていった
高く険しい岸に
和訳の解説①
Расцветали яблони и груши
Поплыли туманы над рекой
Выходила на берег Катюша
На высокий берег на крутой
1行目
「Расцветали」は、ロシア語で「花が咲き誇っていた」という意味の動詞「расцветать」の過去形です。
「яблони и груши」はリンゴとナシという意味なので、「リンゴとナシの花が咲き誇っていた」という意味です。
2行目
「Поплыли 」は「流れていく」「漂う」という意味の動詞「плыть」の過去形です。
「над」は「~の上に」という前置詞でтуманы над рекойで「川の上の霧」を意味します。
3行目
「Выходила」は「出ていった」という意味で、主語はカチューシャなので「ла」と女性形の過去にします。「カチューシャは出ていった」という意味になります。
「на берег」の「на 」は移動先を示すので、「岸のほうへ」という意味になります。
4行目
この文では、「берег(岸)」を2つの形容詞「высокий (高い)」と「крутой(険しい)」が修飾して強調していることを確認しましょう。
「высокий」と「крутой」はどちらも「берег」を修飾しており、通常は名詞の性・数・格と一致します。両方とも本来は対格形である必要がありますが、詩的な理由で「крутой」は主格形のまま使われています。
まとめ
リンゴとナシの花が咲き誇っていた
川の上に霧が漂い始めた
カチューシャは岸の方へと出ていった
高く険しい岸に
和訳の解説②
Выходила, песню заводила
Про степного сизого орла
Про того, которого любила
Про того, чьи письма берегла
1行目
この文では、主語カチューシャが省略されていること、動詞が2つ並置されて使われていることを確認しましょう。
1つ目の動詞は「Выходила(出ていった)」は先ほども出てきました。2つ目の動詞「заводила」は「始めた」という意味で、目的語に「песню(歌)」を置いています。「歌い始めた」ということです。
「песню」は「песня」の対格形です。
2行目
「Про」という前置詞は「~について」という意味を表し、先ほどの歌詞にある「歌」がどんなものだったかを説明しています。
「Про」は後ろに対格をとるので、後の単語はすべて対格形です。
「степного」は「草原の」という形容詞、「 сизого」は「灰色の」という形容詞、「орла」は「鷹」という意味の名詞です。
3行目
2行目に続く、「歌」の内容の説明です。
「того」は「その人」を意味し、男性形なので「その男性」であることが分かります。
後ろの「которого любила」は「того」を修飾する関係代名詞になっています。
ここでは主語が省略されていますが、「любила(愛した)」が女性形であることから、主語はカチューシャであることが分かります。
つまり、「カチューシャが愛したその男性について」という意味になります。
4行目
同じ出だしで始まります。「その男性について」の説明を加えています。
「чьи」も同じく関係代名詞で、「誰の」という所有を表します。英語でいうところの「whose」でしょうか。
「письма」は「手紙(複数)」の意味で、「чьи」と合わせて「その男性からの手紙」という意味になります。
「берегла」は「大切にした」という意味で、主語が省略されていますがカチューシャです。「カチューシャは手紙を大切にしていた」という意味です。
まとめ
カチューシャは出て行って歌い始めた
草原の灰色の鷹についての歌を
愛した人についての歌を
手紙を大事にしていた人についての歌を
和訳の解説③
Ой, ты, песня, песенка девичья
Ты лети за ясным солнцем вслед
И бойцу на дальнем пограничье
От Катюши передай привет
1行目
「Ой」は感嘆詞で「おお」などと訳されます。「ты」は親しみをこめて「あなた」を意味します(訳出しなくてもよいでしょう)。
「песня(歌)」の後に続く、「песенка」は「песня」に可愛らしさのニュアンスを加えた語で、「小さな歌」くらいの和訳にあたります。
「девичья」は「少女の」という意味で、「девушка(少女)」から派生した形容詞です。
2行目
「лети」は動詞「лететь(飛ぶ)」の命令形で、「飛んでいけ」「飛びなさい」という意味です。
「за」は前置詞で、後に与格や対格をとります。ここでは対格をとって「~の後を」「~の方向に」といった意味を表します。
「ясным」は「ясный(明るい)」の造格形です。後ろの「солнцем(太陽)」と合わせて「明るい太陽」を意味します。
「вслед」は「後を追って」という意味の副詞で、前置詞「за」とともに用いられることで、「後を追って飛んでいけ」という命令を補強しています。
3行目
「и」は接続詞で、通常「そして」「さらに」という意味を持ちます。
「бойцу」は「бойец(兵士、戦士)」の与格形で、「~に」を意味します。ここでは、「兵士の下へ」と訳せます。
「дальнем」は「дальний(遠い)」の形容詞で、「遠い」を意味します。後ろの「пограничье」は「国境」を意味します。「на」と合わせて「遠い国境にいる」を表します。
4行目
「от」は前置詞で、出発点や起点を表し、ここでは「~から」という意味になります。与える人や物が「どこから来たのか」を表す際に用いられます。ここでは「カチューシャから」という意味を示しています。
「передай」は動詞「передать(伝える)」の命令形で、「伝えてください」という意味です。
「привет」はロシア語でよく使われる挨拶表現ですね。動詞「передай」とセットで使われ、「よろしく伝えて」という意味を成しています。
まとめ
おお、少女の小さな歌よ
明るい太陽の後を追って飛んでいきなさい
そして遠い国境にいる兵士の元へ
カチューシャからの便りを届けなさい
和訳の解説④
Пусть он вспомнит девушку простую
Пусть услышит, как она поёт
Пусть он землю бережёт родную
А любовь Катюша сбережёт
1行目
「пусть」は願望や希望を表す語で、文の主語に対して「~しますように」「~してほしい」というニュアンスを加えます。
「он」は「彼」で「пусть」に続けて主語として使われ、この文の行為者を示しています。
「вспомнит」は動詞「вспомнить(思い出す)」の未来形ですが、ここでは「пусть」によって願望の表現になっています。「思い出してほしい」という意味です。
思い出す対象が、「девушку простую」で「素朴な少女」を表します。どちらも対格形です。
2行目
同じように「~しますように」という意味の歌詞です。
「услышит」は動詞「услышать(聞く)」の未来形です。
「как она поёт」は「彼女がどのように歌うか」というのが直訳で、前の表現と合わせると「(彼が)彼女が歌うのを聞きますように」といった意味になります。
3行目
「землю」は「земля(大地)」の対格形で、動詞「беречь(守る)」の目的語として使われています。
「родную」は「родной(生まれ故郷の、母なる)」の対格形で、離れていますが「землю」にかかる形容詞です。「母なる大地」を意味します。
4行目
「а」は接続詞で、「そして」や「一方で」といった対比や追加の意味を表します。前の文脈を引き継ぎながら、「また」「それに対して」などと解釈できます。
「любовь」は「愛」という意味です。
「сбережёт」は動詞「сберечь(守る)」の未来形で、ここでは「Катюша」が主語なので、「カチューシャが愛を守るでしょう」となります。
まとめ
どうか彼が素朴な少女を思い出しますように
どうか彼女が歌うのを聞ききますように
どうか彼が母なる大地を守りぬきますように
そしてカチューシャは愛を守りぬくでしょう
和訳の解説⑤
Расцветали яблони и груши
Поплыли туманы над рекой
Выходила на берег Катюша
На высокий берег на крутой
こちらは最初のリフレインです。
リンゴとナシの花が咲き誇っていた
川の上に霧が漂い始めた
カチューシャは岸の方へと出ていった
高く険しい岸に
まとめ
ぜひYouTubeなどで実際に『カチューシャ』を聞いてみてください!
『カチューシャ』の和訳と解説を行ってきました!ロシア語学習者の方はもちろんのこと、そうでない方もぜひ一度音声を聴いてみてください!
筆者もロシア語に興味を持ったきっかけの曲でもあります!