フランス文学史まとめ【分かりやすくマクロに概観】

教養

「フランス文学史についてざっくり知りたい!」あるいは「試験のためにフランス文学史を勉強しなければならない」という方はいらっしゃるのではないでしょうか。

ですが、フランス文学史を概観できる記事を探してもあまり見つからないですよね。筆者も院試で勉強する時に探しましたが、しっくりくるものが見つかりませんでした。結局本を読みまくって勉強しました。

というわけで、フランス文学史をざっくり理解できる分かりやすい年表を作ってみようと思いました。

「フランス文学にどんな歴史があるか知りたい」「試験でも使えそうな知識が欲しい」という方は必見です!


目次

  • フランス文学史おすすめの本
  • 中世
  • 16世紀
  • 17世紀
  • 18世紀
  • 19世紀
  • 20世紀
  • まとめ

フランス文学史おすすめの本

まずは、フランス文学史を勉強するのにおすすめな本を2冊紹介します。もっと詳しく勉強したいと思ったらぜひ読んで勉強してみてくださいね!

『増補 フランス文学案内』

一冊目は、『増補 フランス文学案内』です。岩波から出ています。

正直、始めてフランス文学に触れるという方はこの本一択だと思います。文庫本で文学史の流れが非常にコンパクトにまとまっています。

この本を読み込めばもうフランス文学に関してはほとんど怖いものなしといっても過言ではありません。それだけ内容が充実しています。筆者もこの本でフランス文学史を深めました。

『新版 フランス文学史』

次に紹介するのが『新版 フランス文学史』です。白水社から出ています。

これは先ほど紹介した『増補 フランス文学案内』よりもさらに内容を深くした一冊です。岩波文庫の方を読んで、もっと詳しく作家や作品について知りたいという方はこちらの本がおすすめです

専門的にフランス文学を学びたいという方は、一冊持っておくと重宝します。

※当記事もこの本の記述を参考にしております。

中世

中世のフランス文学は少しとっつきにくいかもしれません。中世のフランス文学を理解するには時代の特徴をまず捉えることが重要です。

中世フランスのキーワードをいくつか挙げておきましょう。

・キリスト教が浸透した「信仰の時代」
・封建制の時代であり、階層秩序があった→ 時代とともに崩れていく
・15世紀までは口承文学が主だった
・ラテン語からフランス語へと変遷していく時代

中世には、教化文学、武勲詩(戦記文学)、抒情詩(内面・感情を主観的に表現した詩)、宮廷文学など様々なジャンルが芽生えました。代表的な作家、作品をいくつか紹介します。

中世の主な作家・作品

  • 『ストラスブールの誓約』(フランス語最後の文献とされる)
  • 『ロランの歌』(武勲詩)
  • 『トリスタンとイズー』(抒情詩)
  • ヴィヨン(『遺言詩集』)

中でも有名なのはヴィヨンです。

日本では、太宰治の作品『ヴィヨンの妻』で有名かもしれませんね。

殺人、盗みを犯し、やがて放浪の生活に入るというすさまじい人生ですが詩に関しては天才でした。

16世紀

16世紀フランス文学で大切なキーワードは次の3つです。

・ルネサンス ・ユマニスト ・宗教改革

ルネサンスは説明する必要がないかもしれませんが、簡単にいうと「神中心の中世文化から人間中心の近代文化へと転換していく運動」のことです。特に古代ギリシアやローマの文化の復興を指しますね。

ユマニストは「古代の文化を理解するには原典に立ち返る必要があるとして、地道にギリシア・ローマの古典を研究していった人達」がそう呼ばれました。ユマニスムは後にキリスト教とも結びついていきます。スタンスは同じで、キリスト教も教会に歪められた教義ではなく原典に従うべきだと考えました。ここは宗教改革と通じますね。しかし、ユマニストは旧教と新教のどちらにも与せずいわば中立の立場にありました。

これら3つのキーワードは互いに結びついています。キーワードを結びつけて理解することで16世紀のフランス文学を理解できます。

16世紀の主な作家・作品

  • ラブレー(『ガルガンチュア』『パンタグリュエル』)
  • カルヴァン(『キリスト教綱要』)
  • ロンサール(プレイヤッド派詩人)
  • モンテーニュ(『エセー』)

この中でモンテーニュを取り上げてみます。

モンテーニュはルネサンス・ユマニスム時代の代表作家といえるでしょう。彼の著した『エセー』は後世に強い影響を与え、今日でも色褪せていません。

『エセー』の序文では「私自身がこの本の内容である」と述べています。自分自身のありのままの姿を読者に提示する自伝的側面と世の様々な問題について論じる評論的な側面があります

モンテーニュは『エセー』で自分自信を見つめ探究することが人間性一般を極めることに通じると考えていたのですね。彼のQue sais-je?(クセジュ)という言葉も有名です。

17世紀

17世紀は太陽王ルイ14世が親政を行った時代です。彼は文芸の保護者でもあり、フランスで芸術は栄えました。

17世紀で絶対的に押さえておきたいキーワードは理性古典主義三単一です。

古典主義
演劇には、人間に普遍的である「理性的」「規範」が必要であるとし、「礼節」を守り「真実らしさ」を追求することを重んじた。

三単一
演劇には、「1つの場所で、1日のうちに、1つの行為だけが完結されること」を求める理論。

デカルトやパスカルがこの時代に活躍したことからも理性という言葉がキーワードになっているのが分かりますね。

また古典主義が広まる中で、新旧論争というものが起こりました。

簡単に言えば、これは古代人と近代人のどちらが優れているのかという論争です。ルネサンスを皮切りに、古代ギリシアやローマの作家たちが敬われてきましたが、近代精神が芽生えてきたことによってそれに疑問をもつ人達が現れてきたのです。

新旧論争に火を点けたのは、ペローでした。『シンデレラ』とか童話の作家として有名ですね。彼は「古代人が偉大であっても敬う必要はない」といった趣旨のことを言いました。

17世紀の主な作家・作品

  • デカルト(『方法序説』)
  • パスカル(『パンセ』)
  • コルネイユ(『ル・シッド』)
  • モリエール(『ドン・ジュアン』)
  • ラシーヌ(『フェードル』)
  • ラ・フォンテーヌ(『寓話詩』)
  • ラ・ロシュフコー(『箴言集』)
  • ラ・ファイエット夫人(『クレーヴの奥方』)

17世紀はモリエールを取り上げましょう。

古典主義演劇の最盛期を築いたのが、コルネイユ、モリエール、ラシーヌの3人でした。コルネイユやラシーヌが概ね悲劇で成功したのに対して、モリエールは喜劇で成功したといえます

彼は「自然」というものを大切にし、人間の日常をよく観察して作品を創り上げました。

現代でもモリエールの作品は度々上演されています。『才女気取り』『女房学校』『人間嫌い』『守銭奴』『町人貴族』など有名な作品がたくさんあります。

18世紀

ルイ14世が亡くなり、1789年にはフランス革命が起こり、絶対王政の時代に終わりが告げられたのが18世紀です。

18世紀の主な作家を見てみると、この時代は「啓蒙主義(公明の世紀)」の時代であることが重要なキーワードだと分かります

啓蒙主義
合理主義の立場から、宗教を問いただし批判を試みた。正確な考察と観察による科学を探究した。また、人間の感情や本能にも注目した。

この時代にはサロン、アカデミー、カフェといった社交界の場が重要な意味を持ちました

啓蒙主義に基づいてそうした社交界の場で様々な話題に対して知的な会話がなされたのです。

18世紀は小説作品が多く書かれましたが、17世紀に続いて演劇がやはり中心となっていました。ただ、古典主義演劇から脱却していきます。

18世紀の主な作家・作品

  • モンテスキュー(『ペルシア人の手紙』)
  • ヴォルテール(『カンディード』)
  • ルソー(『社会契約論』)
  • ディドロ(『百科全書』)
  • プレヴォー(『マノン・レスコー』)
  • マリヴォー(『愛と偶然の戯れ』)
  • ラクロ(『危険な関係』)
  • サド(『ソドム120日』)

18世紀はヴォルテールを取り上げます。

18世紀はヴォルテールの時代といわれるくらいヴォルテールは18世紀フランス文学の顔的存在です。

彼は小説、詩、演劇、批評、手紙など様々なジャンルの作品を残しました。

『哲学書簡』『寛容論』『カンディード』など数々の代表作があります。特に小説『カンディード』はおすすめです。

19世紀

19世紀はフランス文学にとって非常に濃い世紀です。小説の世紀とも呼ばれています。聞いたことのある作家・作品が急激に増えてくると思います。

19世紀の大まかな流れを押さえておくことが大切です

19世紀の流れ
ロマン主義→ 写実主義(レアリスム)→ 自然主義→ 象徴主義

もちろんこれだけに収まりませんが、この流れを知っておけば19世紀のフランス文学は大体理解できます。

ロマン主義
理性的な規範を重視する古典主義に対抗して、「感性」「想像力」「情熱」といったものを重視し、自我の解放を目指した運動。フランス革命の「自由」な精神に後押しされた。
写実主義(レアリスム)
元々は美術の用語で、見たものをありのままに描く主義社会における現実を客観的に観察して描いた
自然主義
写実主義ををより科学的に徹底しようとした主義。人間を描く場合に生理学・生物学的部分に着目した。社会を描く際には、その影の部分も鋭く描いた。
象徴主義
詩の音楽性に注目した感覚の与える象徴によって、真実の世界、精神の世界へと到達することを目指した

それぞれの主義の特徴をざっくり押さえておくことが重要です。こうして見てみると、19世紀のフランス文学は、文学だけでなく美術や音楽といった他の芸術分野とのつながりが強くなっていることが特徴として挙げられそうです。

19世紀の主な作家・作品

ロマン主義

  • シャトーブリアン(『キリスト教精髄』)
  • ミュッセ(『ロレンザッチョ』)
  • ユゴー(『レ・ミゼラブル』)

写実主義(レアリスム)

  • スタンダール(『赤と黒』)
  • バルザック(『ゴリオ爺さん』)
  • フローベール(『ボヴァリー夫人』)

自然主義

  • ゴンクール兄弟(『ジェルミニー・ラセルトゥ』)
  • ゾラ(『居酒屋』)
  • モーパッサン(『女の一生』)

象徴主義

  • ボードレール(『惡の華』)
  • ヴェルレーヌ(『言葉なき恋歌』)
  • ランボー(『地獄の一季節』)
  • マラルメ(『半獣神の午後』)

重要な作家はもっとたくさんいるのですが、見やすさを考慮して少なめに挙げておきます。この中からユゴーを見ていきましょう。

18世紀がヴォルテールの時代なら、19世紀はユゴーの世紀だといわれることもあるくらいに彼の功績は大きいです。

彼の残した詩や『ノートル=ダム・ド・パリ』『レ・ミゼラブル』といった代表作もさることながら、彼は文学史的にも重要な役割を果しています。

彼ははじめての文学運動といえるロマン主義を引き起こした第一人者といえます。

彼の発表した詩劇『クロムウェル』とその序文がロマン主義宣言となりました。『クロムウェル』は古典主義を真っ向から否定するもので上演中止となりましたが、すぐさまユゴーは『エルナニ』を書いて上演しました。古典派からは再び大批判されますが、ロマン派の芸術家達はこれを退け勝利しました。

これが「エルナニ事件」です。

ユゴーの作品はぜひ手にとって読んでみてほしいですね。

20世紀

20世紀は表現内容だけでなく、表現形式にもこだわる作家が増えてきて実験的な作品が多くなったという印象です

それぞれ個性的なので20世紀は作家ごとに覚えていくというのも一手です。

ただ、『新版 フランス文学史』と同じように、サルトルの『文学とは何か』でなされた3つの世代分けは20世紀文学を整理するのに役立ちます。

ざっくりと次のように分けると理解しやすいと思います。

1.ベルエポックの時代
2.シュルレアリスムの時代
3.実存主義の時代

これ以降は、ヌーヴォーロマンや現代思想の時代へとつながっていきます。

ベルエポック
20世紀初頭の数年間を指す。19世紀末に名声を得た作家たちの活躍に加え、文学・芸術・絵画の分野で革新的な動きが見られた。第一次世界大戦によってベルエポックは終わりを告げる。
シュルレアリスム
第一次世界大戦と第二次世界大戦の間に起こった運動。アポリネールやダダイズムによって準備されたともいえるが、出発点はブルトンの『シュルレアリスム宣言』とされる。頭に思いついたことを高速に書いていく「自動書記」が代表的な初期シュルレアリスムの手法。
実存主義
サルトルとカミュが代表的な作家。第二次世界大戦による悲惨さが背景にあり、改めて「人間の存在とは何か」「社会とは何か」が問われるようになった。不安や苦悩といった「不条理」に立ち向かう文学が実存主義の特徴といえる。

20世紀の主な作家・作品

  • アナトール・フランス(『シルヴェストル・ボナールの罪』)
  • クローデル(『繻子の靴』)
  • ヴァレリー(『ドガ・ダンス・デッサン』)
  • ジード(『狭き門』)
  • プルースト(『失われた時を求めて』)
  • ロラン(『ジャン=クリストフ』)
  • アポリネール(『アルコール』)
  • コクトー(『恐るべき子供たち』)
  • ブルトン(『ナジャ』)
  • サン=テグジュペリ(『星の王子様』)
  • モーリヤック(『テレーズ・デスケイルー』)
  • サルトル(『嘔吐』)
  • カミュ(『異邦人』)

19世紀と同様他にも重要な作家はたくさんいますが、絶対に押さえておきたいのは上に挙げた作家たちです。20世紀はアポリネールを取り上げましょう。

アポリネールはある意味で20世紀フランス文学を体現しているかもしれません。

彼は時代的にベルエポックの時代を生きています。彼は詩の分野に革新的なものを持ち込んでいます

代表作『アルコール』は詩の句読点を廃止し、『カリグラム』は文字配列自体も表現の一部に含めています。

美術にも造詣が深く、当時の前衛美術キュビスムの擁護者でもありました。

またアポリネールはシュルレアリスムという言葉を始めて使いました。シュルレアリスムへの橋渡しも担っているんですね。

後世にも影響を与えた彼の文学史上の功績は大きいです。アポリネールの作品自体が読まれることは少ないように思いますが、一読の価値はあります。詩だけでなく、『異端教祖株式会社』『虐殺された詩人』の2つの短編集はおすすめです。

まとめ

長くなりましたが、フランス文学史を概観できる1つの記事を作成しました。

もちろんこれだけですべてをカバーできるわけではないのですが、ざっくりフランス文学史の流れを追うには十分な内容になったと思います。

フランス文学史を勉強したい人はぜひ参考にしてみてください!

【PR】

タイトルとURLをコピーしました