ドイツ文学史まとめ【分かりやすくマクロに概観】

教養

「ドイツ文学史をざっくりと理解したい!」あるいは「試験のためにドイツ文学史に必要な知識を体系的に知りたい」という方に向けて、ドイツ文学史の流れを概観できるような記事を作成しました。

ドイツ文学史をある程度きちんと、かつ分かりやすくまとめたような記事はあまりありません。きちんと勉強しようと思えばやはり入門書を読んで勉強しなければいけなくなります。

「ドイツ文学史を勉強しなければいけない人」「文学好きでドイツ文学について知りたい人」などはぜひご覧ください!

ドイツ文学史おすすめの本

まずは、ドイツ文学史を勉強するのにおすすめな本を2冊紹介します。ドイツ文学史をもっと詳しく知りたいと思ったらぜひ読んで勉強してみてください!(筆者も執筆に際して大いに参考とさせていただきました)

一冊目は、『増補 ドイツ文学案内』です。岩波文庫から出ています。

ドイツ文学史を勉強したいという方はまずこの本を読みましょう。文庫本ですが、文学史の流れをしっかりとつかむことができます。内容も充実しています。この一冊を読み込めば知識としては十分すぎるくらいです。

もう一冊紹介しておきたいのが『はじめて学ぶドイツ文学史』です。こちらも分かりやすく書かれているのでドイツ文学史の勉強を始める方には最適です。

中世~啓蒙主義(18世紀)

中世はその時代背景をおさえながら勉強していくのがよいでしょう。

中世は何と言ってもまず信仰の時代だったので、文学が宗教の布教目的としての側面を持っていたことをおさえておきましょう

それから封建制度が時と共に発達していき、騎士が文学の中心となっていきます。騎士道文学ですね!

騎士階級の人によって作られた宮廷文学の傍ら、民族意識の高まりを示すような文学が生まれました。英雄叙事詩の中で最も有名なものに『ニーベルンゲンの歌』があります。

中世で他に覚えておきたい作家・作品は以下にまとめておきます。

中世の重要な作家・作品

  • 『ヒルデンブラントの歌』(ドイツの最も古い文学のひとつ)
  • エシェンバッハ(『パルツィファル』)
  • フォーゲルワイデ(「菩提樹の下で」)

中世期~近代に移り変わっていくにつれて文学の担い手が徐々に貴族から市民の手に写っていきます。まずはざっくりこの流れをおさえておきましょう。 

この流れの中で、今日のドイツ文学の土台を作ったといえる重要な人物の名を見逃すわけにはいきません。その人物とは、宗教改革で知られるあのルターです。

ルターは聖書を民衆でも分かるようなドイツ語に翻訳して、それが印刷術によって普及したことで現在のドイツ語、ドイツ文学の基礎が作られました

17世紀~18世紀にかけてドイツ文学はバロック→啓蒙主義と変遷していきます。

そして、加えて押さえておきたいことは三十年戦争の敗北によってドイツは他のヨーロッパ諸国よりも大きな遅れをとっていたということです

17世紀~18世紀:バロック→啓蒙主義

バロックについてはルイ14世のヴェルサイユ宮殿を思い浮かべていただけると良いと思います。過剰ともいえる装飾でまさに贅沢の一言に尽きます。

バロックの特徴として挙げられるのは、近代的な進展を目指す一方で、中世的な宗教感情へと向かおうとする分裂です。

バロックの代表的作品は『阿呆物語』です。

18世紀に入ると啓蒙主義の時代となります。この頃からようやく文学が市民の手に渡ったといえ、印刷される書物のほぼすべてがドイツ語となりました。

啓蒙主義で押さえておきたい作家は、ゴットシェットレッシングの2人です。

ゴットシェットは、フランス古典主義に倣って、文学の美を規則的に定着させることに力を入れました。ただ、そのような試みは創造性に乏しく多くの反撃者を生みました。

対してレッシングはまさに啓蒙主義者であり、真理の探究を生涯をかけて行った人物です。彼の代表作には評論『ラオコーン』や喜劇『ミンナ・フォン・バルンヘルム』、悲劇『エミーリア・ガロッティ』などがあります。

ゲーテとシラーの時代

ドイツ文学で一番有名な作家は誰かといえば間違いなくゲーテでしょう。

そんなゲーテの生きた時代は文学史的にも非常に重要な位置を占めます。

まずは、文学史上非常に重要な運動であるシュトゥルム・ウント・ドラングから見ていきましょう。

シュトゥルム・ウント・ドラング
啓蒙主義への反発から生まれた。悟性に対する感情、合理主義に対する非合理主義、規則的な形式に対する内発的な生命力を主張した運動。

ルソーの受容を運動の活力としたこの運動の担い手となったのが、若者を中心とする知識層でした。そしてそこに若きゲーテとシラーが含まれていたのです。

ゲーテとシラーは初めから分かり合っていたわけではありませんでした。しかし、後に二人は互いを認め合うことになります。

そうしてシュトゥルム・ウント・ドラングの後に来るのが、古典主義ですが、そこで多くの作品を生み出したのがゲーテとシラーです。

シュトゥルム・ウント・ドラング古典主義

ゲーテとシラーについては有名な作品がたくさんありますので、ここにすべてを記すことはできませんがその主要な作品の一部をまとめておきたいと思います。彼らの作品を知ることはドイツ文学を深く理解することにつながります。

ゲーテとシラーの主要作品

  • ゲーテ
    • 『若きウェルテルの悩み』
    • 『ヴィルヘルム・マイスター』
    • 『ファウスト』
  • シラー
    • 『群盗』
    • 『素朴文学と情感文学について』
    • 『ワレンシュタイン』

ロマン主義

古典主義の次に来るのがロマン主義です。

ですがその前に、古典主義にもロマン主義にも属さないこの時期の重要な作家3人をまとめておきたいと思います。

ヘンダーリン(『ヒュペーリオン』)

クライスト(『ホンブルク公使』)

ジャン・パウル(『巨人』)

次に、ドイツロマン主義の特徴について見ていきたいと思います。

フランス文学などで見るロマン主義の特徴は、実はドイツ文学でいうシュトゥルム・ウント・ドラングに見られるものでした。つまり、「規範の破壊」、「感性の優位」などの性格を持っています。

ここではシュトゥルム・ウント・ドラングとの発展からドイツロマン主義のキーワードを追っていきたいと思います。

ドイツロマン主義のキーワード
「無限追及」「個性の権利」「自我の拡大」「自由で創造的な空想性」「知性的」

ドイツロマン主義は、中世への讃美を行う一方で近代性も強く持っていたことが注目すべきことです。キーワードの1つに、「知性的」を挙げましたが、ドイツロマン主義は感性と知性の融合が1つ大きな特徴といえます。

最後にドイツロマン主義の代表的な作家・作品をまとめておきます。

ロマン主義の重要な作家・作品

  • シュレーゲル兄弟(『断片』)
  • ワッケンローダー(『芸術を愛するある修道僧の心情の披瀝』)
  • ティーク(『金髪のエックベルト』)
  • ノヴァーリス(『青い花』)
  • ブレンターノ(『少年の魔法の角笛』)
  • グリム兄弟(『グリム童話』)
  • シャミッソー(『影を失くした男』)
  • アイヒェンドルフ(『愉しい放浪児』)
  • ホフマン(『黄金の壺』)

写実主義と自然主義

19世紀の30年代頃からロマン主義は勢いを失っていきます

時代背景としては、イギリスで産業革命が起こり、ヨーロッパ各地で技術が進歩しました。それはもちろん光の部分もあり、影の部分もありました。

労働者を搾取する形で、資本家が現れてきて過酷な現実が問題視されるようになりました。このような社会を背景にして写実主義の文学が描かれました。

写実主義のキーワード
「現実的」「平明素白」「美の追求」

またここでビーダーマイヤーという言葉を覚えておきましょう。

1815年のウィーン会議~三月革命までの時期をビーダーマイヤー期と呼ばれます。文学におけるこの言葉は、古典主義やロマン主義の要素を保ちながら、静かに節度をまもって現実生活をいとなみ、内面の平和を求めようという心的態度を指します。

ロマン主義との過渡期に位置するメーリケも含めて、写実主義の重要な作家・作品をまとめておきます。

写実主義の重要な作家・作品

写実主義初期

  • メーリケ(『旅の日のモーツァルト』)
  • ハイネ(『歌の本』)
  • グツコウ(『精神の騎士』)
  • ドロステ(『聖なる年』)
  • グリルパルツァー(『金羊毛皮』)
  • ゴットヘルフ(『農奴のウーリが幸福になった話』)

写実主義盛期

  • ケラー(『緑のハインリヒ』)
  • シュティフター(『晩夏』)
  • ラーベ(『雀小路年代記』)
  • シュトルム(『みずうみ』)
  • マイヤー(『フッテン最後の日』)
  • フォンターネ(『エフィ・ブリースト(罪なき罪)』)
  • ヘッベル(『ユーディット』)

自然主義~第二次世界大戦

写実主義の終わりから第二次世界大戦までの文学史の流れを大雑把にまとめると次のようになります。

自然主義→印象主義→理想主義→表現主義新即物主義

普仏戦争に勝利したドイツは、新文学を創造しようとする意欲が高まっていました。

まずは1880年代に始まった自然主義の特徴から確認していきましょう。

自然主義
フランスから影響を受けた。自然科学的方法をとって環境や遺伝などの研究に重きが置かれた。「美」ではなく「真実」を重視し、ありのままの醜(現実)を書くことを厭わない。

自然主義の重要作家としてハウプトマンをおさえておきましょう。彼の自然主義作品としては、『日の出前』『はたおりたち』が有名です。

ただ、自然主義はドイツでは長く続きませんでした。環境との関係を重視する試みは、決定論的にならざるをえず、ドイツの精神と合わないものでした。

ハウプトマンが自然主義からの転向を行った好例といえます。

自然主義の後に生まれたいくつかの潮流をまとめて「新ロマン主義」と言い表せられます。

そしてこの時期に見逃すことのできないドイツ、いや世界最大の哲学者が現れます。ニーチェです。

ニーチェが説く積極的な人生態度・強い生命力の肯定は決定論的になりがちな自然主義の批判にいっそう拍車をかけます。

ニーチェは今後のドイツ文学に非常に大きな影響を与えます。ここでは、直接的に影響を受け生命の文学を表した作家を挙げておきます。

生命の文学の重要な作家・作品

  • デーメル(『人間ふたり』)
  • ヴェーデキント(『春のめざめ』)
  • ハインリヒ・マン(『ウンラート教授』)

次に印象主義について見ていきましょう。

印象主義
ニュアンスをその細部にわたって残りなく感じ取ろうと試みるつねに新しい美を発見しようとし、芸術家としての自由と意欲の回復が見られる厭世的な側面がある。

印象主義の最重要作家はホフマンスタールです。彼も含めて印象主義の重要な作家・作品をまとめておきます。

印象主義の重要な作家・作品

  • ホフマンスタール(『塔』)
  • シュニッツラー(『輪舞』)
  • ツワイク(『感情のみだれ』)
  • ムージル(『特性のない男』)

次に、理想主義文学を見ていきましょう。

理想主義
ニーチェの「神は死んだ」という言葉に触発されて、古い神に代わる新しい意義・価値観を自ら獲得しようとした「ことば」への熱意に満ちている。

理想主義文学で最も馴染み深いのがリルケでしょう。その他重要な作家も含めてまとめておきます。

理想主義の重要な作家・作品

  • シュピッテラー(『神々の春』)
  • ゲオルゲ(『心の四季』)
  • リルケ(『マルテの手記』)

第一次世界大戦に敗北したドイツの中で、既存の芸術を否定し、本質と真理を求めて自我の内部にあるものをひたすら自己表現しようとする動きが現れました。これが表現主義です。

表現主義はあらゆる形式や拘束を無視することに特徴があります。

表現主義の作家としてはトラークルの名をおさえておきましょう。

しかし、表現主義の陶酔と現実は相容れないものでした。そうした幻滅から、「新即物主義」という行き方が現れてきました。

「新即物主義」は、表現主義のような幻想を排して、事実に即して現実に向き合っていこうとする特徴があります

新即物主義の重要な作家・作品

  • ブレヒト(『三文オペラ』
  • ブロッホ(『夢遊病者たち』)
  • カフカ(『変身』)

最後にここで述べた流派に分類することが難しいが、ドイツ文学における巨匠たちの名をまとめたいと思います。トーマス・マンやヘッセは日本において馴染みの深い作家でしょう。

その他の重要な作家・作品

  • ヘッセ(『車輪の下』)
  • カロッサ(『ドクトル・ビュルガーの運命』)
  • トーマス・マン(『魔の山』)

第二次世界大戦以降

第二次世界大戦に敗れ、ナチスの失態の精算を課せられたドイツは辛苦を嘗めました。ドイツは西と東に分裂される状態が40年間も続きました。

第二次世界大戦後のドイツ文学は少なからずこうした時代背景を踏まえており、文学と政治の結びつきがこれまでより圧倒的に強くなります

戦後から現代までの時代の流れを簡単にまとめておきたいと思います。

1945~1949年
廃墟と混沌の時期

1949~1965年
アデナウアー時代。反共を掲げた西ドイツが経済復興に成功する。東ドイツも「壁」を作って西と遮断することで国情が安定した。

1965~1982年
西ドイツで社会民主党が政権を担った。学生の反乱など社会構造を改革しようとする動きがあった。東西ドイツ国家が相互の存在を認め合った。

1990年
ドイツ統一が実現した。

まずはこうした時代の流れを大きく掴んでおくことが重要です。

本来なら時代ごとに作家を分類してまとめるべきなのですが、記事が複雑になり長くなってしまうので、第二次世界大戦以後に関しては重要な作家・作品をまとめるに留めておきます。

気になった作家・作品については個々に調べてみてください!

第二次世界大戦以降の重要な作家・作品

  • レマルク(『西部戦線異状なし』)
  • アイヒ(『夢』)
  • エンツェンスベルガー(『国のことば』)
  • ベン(『静力学詩編』)
  • バッハマン(『猶予の時』)
  • ツェラン(『ケシと記憶』)
  • マックス・フリッシュ(『シュティラー』)
  • デュレンマット(『物理学者たち』)
  • ベル(『九時半の玉突き』)
  • グラス(『ブリキの太鼓』)
  • ヴォルフ(『カサンドラ』)
  • ベンヤーミン(『パサージュ論』)
  • アドルノ(『啓蒙の弁証法』)
  • ハントケ(『ゆっくりの帰郷』)
  • シュトラウス(『会議』)
  • ジュースキント(『香水ーある人殺しの物語』)
  • エンデ(『モモ』)

まとめ

「弱者のための文学」といわれるドイツ文学について紹介してきました。

なるべくコンパクトにまとめるために文学史の流れと重要な作家・作品の言及に留めました。

もっと詳しく勉強したい方、興味を持たれた方はこの記事を皮切りにお好きなドイツ文学にぜひ触れてみてください!

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